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2013年5月4日土曜日

【お知らせ】2013.4.24仙台高裁の判決(決定)のデジタルデータ

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仙台高裁の決定(2013年4月24日)
    当事者及び代理人                   別紙当事者目録記載のとおり

リンク
                       
    1     抗告人らの当審における申立てをいずれも却下する。
    2     当審における手続費用は抗告人らの負担とする。

                       
1       申立ての趣旨
 1 相手方は、抗告人らに対し、測定高さ1メートルにおいて、空間線量測定値の平均値が0.193マイクロシ一ベルト/時以上の地点の学校施設において、抗告人らに対する教育活動を実施してはならない。
 2 相手方は、抗告人らに対し、測定高さ1メートルにおいて、空間線量測定値の平均値が0.193マイクロシーベルト/時以上の地点以外の学校施設において、抗告人らに対する教育活動を実施しなければならない。


2        事案の概要
1        本件は、福島県郡山市に居住して相手方の設置する別紙学校目録の原審 学校 欄ないし当審学校欄記載の小中学校に就学するという抗告人らが、同日録の原審学校欄及び当審学校欄記載の小中学校を設置してその教育に関する事務を管理・ 執行する郡山市教育委員会を置いている相手方に対し、人格権に係る妨害排除請求権及び就学関係に係る安全配慮義務履行請求権を被保全権利として、平成23311日の東北地方太平洋沖地震(東日木大震災)による東京電 力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)における大量の放射性物質流出事故の結果、抗告人らが通う各小中学校での空間放射線量が年間の最大許容限度である1 ミリシーベルト(福島県における自然放射線による空間線量0.037マイクロシーベルト/時を除く追加線量である0.156マイクロシーベルト/時)以上 となっており、抗告人らの生命・身体・健康に重大な影響を与える危険な状況になっていると主張して、空間線量測定値の平均値が0.193マイクロシーベル ト/時以上の地点の学校施設における教育活動の差止め及び上記地点以外の学校施設における教育活動の実施を求める仮処分の事案であり (なお、抗告人らは、原審において、測定高さが50センチメートル又は1メートルのいずれかにおいて空間線量測定値の平均値が0.2マイクロ'シーベルト /時以上の地点の学校施設における教育活動の差止め及び上記地点以外の学校施設における教育活動の実施を求めていたが、当審において、申立ての趣旨を前記 第1のとおりに変更した。) 、 原審が被保全権利の疎明がないとして仮処分申立てをいずれも却下し、抗告人らが抗告したものであるが、  抗告人らの原審相債権者で申立てをいずれも 却下され■■■■■■び■■■■■■は、不服申立てをしていない。
  また、抗告人らと原審相債権者であった■■■■■及び■■■■■は、原審で申立てを取り下げた。


2 抗告人らの主張
(1) 抗告人らは、福島県郡山市に居住して、相手方の設置する別紙学校目録の原審学校欄記載の各小中学校に就学していた。
上記各小中学校及び同日録当審学校欄記載の各小中学校は、相手方の置いている郡山市教育委員会が設置してその教育に関する事務を管理・執行している。

(2) 福島第一原発は、東京電力株式会社が福島県双葉郡大熊町大宇夫沢字北原22番地などに設置する原子力発電所であるが、平成23311日発生 の東北地方太平洋沖地震及びこれによる津波により、全電源を喪失して原子炉及び使用済み核燃料を冷却する機能が失われた結果、大量の放射性物質を流出する事故を発生させ、これにより、主に東北と関東全域及び太平洋側の海洋が高濃度に汚染された。

(3) この未曾有の事故に対し、国は原 子力災害対策特別措置法152項、3項に基づき、平成23312日に福島第一原発から半径20km圏内に避難指示を、同月15日には半径20kmか ら30km圏内に屋内待避指示を、それぞれ出し、同年422日には半径20km圏内が警戒区域に設定され立入りを禁止した。
  ま た、文部科学省は、福島県教育委員会などに宛てて、同月19日、「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な考え方について」と題する通知 を行い、その中で、「非常事態収束後の参考レベルの1-20ミリシーベルト/年を学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とし、今後できる限 り、児童生徒等の受ける線量を減らしていくことが適切であると考えられる。」とした上で、「当面、校庭・園庭での活動を1日当たり1時間程度にするなど、 学校内外での屋外活動をなるべく制限することが適当である。文部科学省による再調査により校庭・園庭で3.8マイクロ シーベルト/時間未満の空間線量率が測定された学校にっいては、校舎・校庭等を平常どおり利用して差し支えない。」との措置を求めた。
  そ の後、国(文部科学省)は、同年527日、上記通知を事実上修正し、「学校において児童生徒等が受ける線量について、年間1ミリシーベルト以下を目指 す。」などを内容とする「福島県内における児童生徒等が学校等において受ける線量低減に向けた当面の対応について」と題する発表をした。


(4) 被保全権利
 ア  人間の健康面から許容される公衆の線量限度は、諸説あるものの、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告(200712月公表)では年間1 ミリシーベルトとされている。なお、欧州放射線リスク委員会2010年勧告では、「公衆の構成員に対する年間の最大許容線量は0.1ミリシーベ ルトよりも低く維持されるべきである。原子力産業の労働者に対する被ばく限度は年間2ミリシーベルトにすべきである。」とされている。


ICRPの勧告を受けて、現在の国内法においても、公衆被ばくの限度は年間1ミリシーベルトを基準として構成されている。


イ 積算値
  抗 告人らの通学する小中学校は、いずれも郡山市豊田町から約5キロメートル以内の距離にあるところ、文部科学省、原子力安全委員会及び原子力安全・保安院共 同作成の「実測値に基づく各地点の積算線量の推計イ直」の表に記載の「郡山市豊田町」(郡山総合体育館)における平成2331206時から同年5 2524時までの75日問の推計による線量の積算値は、2.9ミリシーベルトで、この時点で1ミリシーベルトをはるかに超えている。のみならず、郡山市 豊田町の測定地点がアスファルトの地面であるのに対し、抗告人らの通学する小中学校では、測定地点が土の地面である校庭であるから、郡山市豊田町の積算値 より少なくとも1.32.3倍高く、上記期間の積算値は外部被ばくだけで少なくとも3.86.67ミリシーベルトとなる。


ウ 一般公衆の年間被ばく限度とされる1ミリシーベルトは、自然放射線による被ばく (O.037マイクロシーベルト/)を除く追加線量であると解されるところ、屋外滞在を8時間、屋内滞在を16時間とし、木造家屋の低減効果を0.4と する原子力安全委員会が試算した際の推計方法によれば、次のとおり、空間線量が0.193マイクロシーベルト/時以上の地点で生活する場合、今後1年間の 追加線量が1ミリシーベルト以上になると推計される。
 (0.156μSv × 8時間 + 0.156μSv x (10.4) × 16時間) × 365日 ≒ 1000μSv=1mSv
0.156μSv+0.037μSv=0.193μSv
なお、 ■■■小学校及び■■■小学校の空間線量は、現在、測定高さ1メートルにおいて0.193マイクロシーベルト/時をはるかに超えている(103)



エ 福島県内の児童生徒の権利
 () 憲法261項は、国民の教育を受ける権利を規定するところこれは当然に「安全に教育を受ける権利」を保障するものであり、児童生徒は、生命・身体・健康を損なうことなく教育を受ける権利を憲法上保障されている。

 
() 国民は、憲法13条、25条により生存権・生命に対する権利を保障されており、放射性物質流出による生命・身体・健康への侵害から保護される権利を有する。


() 学校教育法12条は、学校が、児童生徒等の健康の維持増進を図るため、健康診断を行うほか、その他その保健に必要な措置を講じなければならないとしており、児童生徒及び保護者は、適切な保健措置を講ずることを求める権利を有している。


() 児童の権利に関する条約31項は、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、栽判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」と規定している。


() 上記の児童生徒の権利を全うするため、国及び地方公共団体は、児童生徒の生命・身体・健康を守るために必要な措置をとる安全配慮義務を負う。
  すなわち、福島第一原発から大量の放射性物質が身近に放出され続けている福島県内において、国、福島県及びその市町村は、小中学校、保育園及び幼稚園に通う児童生徒が放射線障害によるがん・白血病の発症で生命・身体・健康を損なわれることのないように、危険区域において 教育活動を行わない措置を積極的にとる安全配慮義務がある。
  学校保健安全法26条が、学校設置者に対し、児童生徒等に生ずる危 険防止及び危険等発生時の適切な対処のために必要な措置を講ずるよう定めているのは、安全配慮義務の表れであり、学校教育法12条も同様である。

() 小中学校の設置場所
   年間の放射線量の積算値が1ミリシーベルトを超えると推計されるような危険区域内に設置した小中学校では安全配慮義務を全うすることができない。
   学 校教育法38条は、小中学校の設置場所にっいて、「市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるに必要な小学校を設置しなければならない。」とし、同 法49条において中学校についても同法38条を準用するが、これはあくまで原則を定めたもので、やむを得ない理由がある場合、その区域外に設置することも 当然に認められる。「昭和34423委初80 初中局長回答」では、「市町村が小・中学校を設置するに当たっては、その区域内に設けるのが原則であるが、やむを得ない理由がある場合は区域外に設けるこ ともできる」とされており、平 成23312日から同年525日までの75日間だけで年間最大許容限度である1ミリシーベルトの3.86.67倍もの外部被ばくと なった状況は、上記やむを得ない理由があることが明らかである。

 
オ 以上のとおりであるから、空間線量が0.193 マイクロシーベルト/時以上の危険地域において教育活動を継続することは抗告人らの人格権に対する侵害であるとともに、前記安全配慮義務に違反するもので ある。よって、抗告人らは、その人格権に基づく妨害排除請求権及び相手方との間の在学契約から生じる安全配慮義務履行請求権に基づき、上記教育活動の差止 めと安全な学校施設において教育活動の実施を請求する権利を有する。相手方は、安全配慮義務を全うするため、早急に小中学校を危険区域外に移転して設置す べき法的義務を負う。そして、憲法262項後段は義務教育の無償を規定しており、学校設置者である地方公共団体がその費用により義務を履行すべきであ る。


  (5) 保全の必要性
    積算の年間の空間線量が1ミリシーベルトを超えた地域及びこれを超えることが確実に予測できる地域において教育活動を行った場合、抗告人らが放射線障害によ るがん・白血病の発症で生命・身体・健康を損なわれる具体的危険性があり、この点は同種の原発事故であるチェルノブイリにおける原発事故後の被害状況と対 比してみれば明らかというべきである。
    しかるに、国・地方公共団体がその費用により集団疎開措置を施さない限 り、上記事態を打開できず、ほかに実効的手段はない。なお、福島県内では、子どもの健康被害を避けるため、既に多くの親が自主的に子どもを転校させて県外 に避難させているが、個人的に子どもを避難させるのは、経済的に大きな負担であるのみならず、子どもを学校集団から切り離し、それまでに築 き上げた恩師や友人との関係を断絶させる結果となり、子どもにとって精神的負担が大きく、教育上好ましい結果を生じない。子どもの教育権を保障しつつ、そ の生命・身体・健康を守るためには、小中学校の設置者である市町村において、危険地域外の施設に学校ごと移転させて学校教育を行うこと、すなわち、集団疎 開を施すしか方法がない。
  抗告人らは、高濃度放射線により日々その健康をむしばまれており、本案訴訟の確定を待っていては、その健康に取り返しのつかない被害を受けるお それがあり、抗告人らに生じる著しい損害及び急迫の危険を避けるため、申立ての趣旨のとおりの仮処分命令が必要である。


3 当裁判所の判断
 1  本件の判断の前提となる事実は、原決定の「第4 当裁判所の判断」の1(原決定221行目から1324行目まで)のとおりであるから、これを引用する (原決定中、債権者とあるのは抗告入、債務者とあるのは相手方とそれぞれ読み替えられることになる。)

2 抗告人■■■■■以外の抗告人らについて
  証拠 (4546) 及び審尋の全趣旨によれば、抗告入■■■■■以外の抗告人らについては、本件申立後に相手方の設置する
小中学校を卒業し、あるいは他の市町村に転出した結果、現在別紙学校目録記載の相手方の設置する学校(小 中学校)には在籍していないことが認められる。そうすると、抗告入■■■■■以外の抗告人らは、相手方の設置管理する学校施設において学校教育を受けてい る者ではないから、その人格権ないし安全配慮義務の履行請求権に基づいて、教育活動の差止めや新たな教育活動を求めることはできず、したがって、被保全権 利を有しないものというべきてある。
 上記抗告人らは、福島第一原発事故による一時的避難などで住所地を離れたにすぎず、本件仮処分事件等の結果、将来相手方が児童生徒の一部又は全部を避難させ る措置を採る場合には、避難する児童生徒と行動を共にする意思であり、相手方の管轄行政区域内の放射線量が低下して安心できる環境に戻れば、
郡山市に戻る意思であるなどと主張するが、現に別紙学校目録記載の相手方の設置する学校に在籍していないため、その主張するような被害を被り、あるいは被るおそれがあるとはいえない以上は上記判断を左右するものではない。
 よって、抗告人■■■■以外の抗告人らについては、その余の点について判断するまでもなく、その申立ては、被保全権利の疎明がなく、理由のないことが明らかである。


3 抗告人■■■■■(以下・この項においては単に抗告人という。) について
(1) 証拠 (186) 及び審尋の全趣旨によれば、抗告人は、相手方の設置に係る■■■■学校に在籍していたところ・同校を卒業して平成244月に同じく■■■■中学校に進学し、現在同中学校に在籍していることが認められる。


(2) 抗告人の本件申立ては、東北地方 太平洋沖地震による津波によって東京電力株式会社が設置管理していた福島第一原発が被災し、同所から大量の放射性物質が流出した結果、これによる大量の放 射線が大気中に拡散放出され、その被ばくにより人体(とりわけ成長過程にある児童である抗告人)に有害な影響を与えることを前提として、相手方の設置に係 る学校施設において放射線量測定値の平均値が0.193マイクロシーベルト/(福島県における自然放射線量である0.037マイクロシーベルト/(102)を勘案した年間1ミリシーベルト程度の1時間当たりの放射線量である空間線量率) 以上の地点の施設における教育活動がその生命・身体・健康を脅かす侵害に当たるので、人格権に基づく妨害の排除として。また、同時にそれが相手方の負う安 全配慮義務に反するので、そめ義務の履行として、仮に抗告人に対する教育活動の差止めを求めるとともに、上記地点以外の学校施設における教育活動を求める ものである。
抗告人の上記の主張からも明らかなとおり、本件は、一時的な強線量の被ばくによる急性障害の危険を避けるというのではなく、長期間にわたる低線量被ばくによる晩発性障害の危険を避けるために、年間に被ばくする積算追加放射線量の上限値を1 ミリシーベルトとすべきであるとした上で、これを超える年間の積算放射線量による被ばくがその生命・身体・健康に被害を及ぼすから、その1時間当たりの平 均数値である0.193マイクロシーベルトを超える空間線量率の下での教育活動による被ばくは抗告人の生命・身体・健康に被害をもたらすものであるとし て。その教育活動の差止めを請求する とともに、上記数値を超えない地点の学校施設での教育活動を請求するものである。












(3) そこで検討するに、引用に係る原決定摘示の当事者間に争いのない事実等に証拠 (496272から748 1849397103)及び審尋の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。


ア 平成23 3月、福島第一原発事故により、同所から大量の放射性物質が流出して人の生命・身体・健康に対する重大な危険が生じた。このため、福島第一原発から一定圏内にある地には避難指示や屋内退避指示が出され、また、警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難 区域の指定がされたが、相手方の管轄行政区域はこれらの指示や指定の対象区域とはなっていない。


イ 文部科学省では、平成234月以降、 福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断についての各種通知を発し、ICRPの助言を考慮して、児童生徒の受ける放射線量を減らしていくことが適切である とした上で、学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安として年間積算放射線量として1ないし20ミリシーベルトの数値を採用して教育活動を行うものとしている。


ウ 長期間にわたる低線量の放射線を被ばくした場合に現れる晩発性障害として、発癌率が高くなるなどの健康被害が挙げられるところ、例えば甲状腺癌は児童10 万人当たり数名程度しか発症しないとされているのに、福島第一原発と同レベルの重大な原発事故とされる旧ソビエト連邦において昭和61年に発生したチェルノブイリ原発事故においては、事故発生の五、六年後から 甲状腺疾病と甲状腺腫双方が急増し、9年後には児童10人に1人の割合で甲状腺疾病が現れたとの報告がある(49)。そして、チェルノブイリ原発事故に よる健康障害調査データから郡山市で今後発症するであろう種々の健康障害(晩発性障害)の予測として、先天障害の増加、悪性腫瘍の多発、1型糖尿病の増 加、水晶体混濁・白内障、心臓病の多発を指摘する意見もある(72)。                              
また、福島県県民健康管理調査検討委員会が発表した平成24年度甲状腺検査の検査結果とチェルノブイリ原発事故後に行われた小児の甲状腺検診データとを対比して、福島の児童には被ばくから数年後のチェルノブイリ高汚染地域の児童に匹敵する頻度で甲状腺癌が発生し、甲状腺癌が今後激増するおそれがあるとの指摘もある( 227)

エ 相手方の管轄行政区域における空間線量率についてみると、まず、相手方の設置する小学校である■■■■■小学校及び■■■■小学校において平成24 219日及び同月20日に空間線量率を計測した結果、152箇所のポイントのうち、1メートルの高さの空間線量率が0.193マイクロシーベルト/時 以下のところは1箇所にすぎず、環境省により除染の基準とされる0.23マイクロシーベルト/時を下回ったところは9箇所にすぎなかった(1032 )。また、抗告人が現に通学す■■■■中学校においては、平成2443日から13日までの4臼間における空間線量率の測定結果は、いずれも高さ1 メートル地点の校庭で0.27から0.29マイクロシーベルト/時、教室内で0.08から0.09マイクロシーベルト/時であり (30)、平成2523日における同様の66地点の計測結果によれば、1メートルの高さの空間線量率は0.14から1.30マイクロシーベルト/時 の間に分布し、0.193マイクロシーベルト/時以下のところは7箇所であり、平均値は0.39マイクロシーベルト/時であった(221)
相手方の設置する学校施設については、この間、校庭の表土除去、校庭整地などの除染作業が続けられていて一定の成果を上げている( 2から713)ものの、未だ十分な成果が得られているとはいえないのであるが、その主要な理由の一つとして、校庭外から飛散する放射線(ガンマ線)の影 響が挙げられている。ガンマ線は100メートル以上離れたところから飛来するため、ある場所の放射線量を下げるためには半径数百メートルの地域一帯を除染 しなければならないとされており(10313)、学校周辺すなわち地域全体の除染が実施されなければ学校内の放射線量も下がらないが、除染により放 射線量を下げるためには、屋根瓦や側溝のコンクリート、道のアスファルトなどにこびりついたセシウムは高圧洗浄によっても除去できないため瓦の葺替えやアスファルト・コンクリートをはがしての工事のやり直しを要するなど、ガンマ線の飛来を考えると地域ぐるみの除染が必要であり、しかも除染は一回では不十分 で何回もする必要があることとされている一方で、汚染土の仮置場が見つからないため、やむなくこれをその地域内に置いている(学校においては校庭の一画に 埋設した。)が、こうした仮置場が容易にみつからないことが、除染の作業が進まない直接的な理由とされている (85103)
 次に、抗告人が居住する相手方の管轄行政区域内の3箇所における平成2421日における空間線量率は0.8ないし1.2マイクロシーベルト/時であった (115)。また、福島県が発表している平成25110日から29日までの郡山市の空間線量率は0.41から0.54マイクロシーベルト/時で あった(229添付資料7)。さらに、福島県災害対策本部による平成25222日における郡山合同庁舎南側駐車場における環境放射能測定値(暫定 値)(12450)によれば、空間線量率は約0.52マイクロシーベルト/時であった(抗告人平成25222日付け準備書面(9)添付別紙1)
 相手方においては、市内全域の追加被ばく線量(自然被ばく線量及び医療被ばく線量を除いた被ばく線量)を年間1ミリシーベルト(高さ1メートルにおける空間 線量率0.23マイクロシーベルト/)未満にすることを目標に、国の示す除染方法により学校施設を含めた公共施設における除染を実施している( 31)


(4) 以上の事実によれば、郡山市に居 住し■■■■学校に通っている抗告人は、強線量ではないが低線量の放射線に間断なく晒されているものと認められるから、そうした低線量の放射線に長期間に わたり継続的に晒されることによって、その生命・身体・健康に対する被害の発生が危惧されるところであり、チェルノブイリ原発事故後に児童に発症したとさ れる被害状況に鑑みれば、福島第一原発付近一帯で生活居住する人々とりわけ児童生徒の生命・身体・健康について由々しい事態の進行が懸念されるところであ る。
ところで、福島第一原発から 流出した放射性物質ないしこれから放出された放射線は、その発生の機序からしても明らかなとおり、ひとり相手方の設置管理に係る学校施設にのみ存在するものではなく、抗告人の居住する自宅及びその周辺や自宅と学校との通学路、さらには十日手方の管轄行政区域の全域にわたり、その濃淡の別はともかくとして、 等しく存在していることは上記認定の事実から容易に推認することができる。そうした放射性物質により汚染された土壌などを除洗するため、相手方などの各地 方公共団体を始めとする各団体や個人などがこれまで土壌の入れ替えや表士剥騨などに取り組み、多くの費用と様々な努力が傾注された結果、一定の除洗の成果 を上げるに至ったとはいえ、なお、広範囲にわたって拡散した放射性物質を直ちに人体に無害とし、あるいはこれを完全に封じ込めるというような科学技術が未 だ開発されるに至っていないことは公知の事実であり、また、その大量に発生した汚染物質やこれを含む士壌などの保管を受け入れる先が乏しいこともあって、 これを付近の仮置場に保管するほかないまま経過していることから、今なお相手方の管轄行政区域内にある各地域においては、放射性物質から放出される放射線 による被ばくの危険から容易に解放されない状態にあることは上記認定の事実により明らかである。 
                  
もっとも、相手方の管轄行政 区域においては、特に強線量の放射線被ばくのおそれがあるとされているわけでも、また、避難区域等として指定されているわけでもなく、今なお多くの児童生 徒を含む市民が居住し生活しているところであって、上記認定に係る推手方の管轄行政区域内における空間線量率をみる限り、そこで居住生活することにより、 その居住者の年齢や健康状態などの身体状況による差異があるとしても、その生命・身体・健康に対しては、放射線被害の閾値はないとの指摘もあり中長期的に は懸念が残るものの、現在直ちに不可逆的な悪影響を及ぼすおそれがあるとまでは証拠上認め難いところである。

 このように、福島第一原発から流出した放射性物質から放出される低線量の放射線は、抗告人が現に居住し生活する空間に遍く存在しているのであって、抗告人が現、住所に居住して生活し、そこから相手方の設置する■■■■中学校に登校する限りは、その通学する学校外においても日夜間断なく相当な量の放射線に晒されていることになる。実際、上記認定の相手方の管轄行政区域内 における空間線量率は、平成242月から平成252月の3回の測定値をみても、抗告入が平均被ばく量の上限と主張する0.193マイクロシーベルト/ 時の倍以上である0.41マイクコシーベルト/時以上に達するものであり (なお、この数値は、平成244月、平成252月における■■■■中学校校庭における空間線量率の平均値を上回っている。)、この数値を前提とする限 り、抗告人力■■■■中学校において学校生活を送ると考えられる8時間を除外したその余の16時間の学校外での生活空間(全時間を木造家屋内とする。)で 生活をした場合に被ばくするものと算定される1年間の積算追加放射線量は抗告人主張の1ミリシーベル1・を3割以上も超過することとなる ((0.41μSv - 0.037μSv) x (1 - 0.4) x 16時間× 365 ≒ 1306μSv ≒ 1.3mSv)。すなわち、抗告人は、郡山市に引き続き居住する限りは、相手方の設置する学校施設以外の生活空間において既に抗告人がその生命・身体・健 康に対する被害を回避し得る上限値として主張する年間の積算被ばく量を超える量の放射線を被ばくすることが避けられないこととなるから、学校生活における 被ばく量の多寡にかかわらず、その主張する被害を避けることはできない計算となる。そして、抗告人において、現在学校施設外での被ばく量を減少させること ができるような施設設備の下で日常生活を送り、あるいは送ることができるような状況にあるとの特別の事情も認めることはできない。
そうしてみると、抗告人が引き続き郡山市に居住する限りは、その主張するような教育活動の差止めをしてみても、抗告人が被ばく放射線量の年間積算量の上限と主張する量(そ の当否は暫く措く。)を超える放射線量の被ばくを回避するという目的を達することはできず、その回避のためには、そうした空間線量率以下の地域に居住する ほかには通常執りうる手段がなく、そうであれば、年間の積算放於線量の被ばく回避を目的とする抗告人主張の差止請求権の発生を認める余地はない。また、同様に、■■■■中学校での教育活動に当たっての相手方が負うべき安全配慮義務として、抗告人が主張するような空間線量率を上限とすべきことを前提に、これを超え る学校施設での教育活動を差し控えるべき注意義務があるということもできない(なお、抗告人が現に通学する■■■■中学校における平均空間線量率が郡山市 の平均的なそれを下回っているという状況にあることは上記のとおりである。)
  したがって、教育活動の差止めを求める抗告人の請求は、結局被保全権利の疎明を欠くということになる。


























(5) 次に、抗告人は、一定の空間線量率以外の学校施設における教育活動の実施を請求する。
  上記(4)で説示したところによれば、抗告人が現に居住している自宅周辺の地域を含む相手方の管轄行政区域においては遍く放射性物質による放射線被ばくが避けられないのであって、抗告人が主張するような年間1ミリシーベルト以下という積算空間線量率の環境が確保されるような学校生活を含めた生活を送るとなる と、抗告人が自宅を離れた地に転居して教育活動を受けることは避けることができない。抗告人はそうした前提で上記請求をするようであるが、他方で、相手方 は、現にその設置する■■■■中学校で多数の生徒に教育活動を行っているものであるところ、現にその学校施設での教育を受けている生徒がおり、その教育活 動を継続することが直ちにその生徒の生命身体の安全を侵害するほどの危険があるとまで認め得る証拠もないから、相手方が現在の学校施設での教育活動を継続 することが直ちに不当であるというべきものではない。


ところで、抗告人の転居する地域に相手方が学校施設を開設してそこでの教育活動を施 すことは、現に抗告人が被っている放射線被害から解放される一つの選択肢ではあろうけれども、そうした地での教育は、そうした地における教育機関によって 行われることが原則であり、遠隔地の公的教育機関がわざわざ地元の公的教育機関を差し置いてまで別の学校施設を開設する必要があるとはいえない。転居をす る場合には転居先での公的教育機関による教育を受けることでその目的は十分に達することができるはずである。
   抗告人は、この点について、同窓の友人らを始めとする教育環境を重視すべきであるとして、個人での自主転居に否定的な意見を述べるが、本件は抗告人が原審以来一貫して主張し、抗告理由においても強調するように、相手方の管轄行政区域にいるすべての児童生徒に対する教育活動に関する請求ではなく、あくまで、 抗告人個人の放射線被ばくを回避するためにその人格権ないし安全配慮義務の履行請求権に基づく抗告人個人の請求なのであるから、他の生徒の動向については 当然にこれを勘酌すべきものではない(他地域で学校施設を新たに開設し、あるいはこれに代えて教育事務を他の市町村に委託する(学校教育法40条、49 )としても、就学希望者や収容能力その他の関係上、希望者全員が同一の施設で教育を受けることができるとは限らないはずであり、'教育上の配慮の要請が あるとはいっても、各人個別の対応をとることさえあり得よう。したがって、抗告人が主張するような「集団疎開」は、抗告人が主張するような被ばく被害を回 避する一つの抜本的方策として教育行政上考慮すべき選択肢ではあろうけれども、もとより抗告人個人の請求権に係る本件請求に関する判断の対象外というべきものである。)
このように、抗告人の主張するような放射線被害を回避するためには現住居から転居し て相手方の管轄行政区域外に居住することを前提とするほかはなく、その場合には、その転居先での公的教育機関が設置した学校施設で学校教育を受けることに 何らの妨げもない以上は、抗告人の人格権に基づく妨害排除請求として、相手方の管轄行政区域外の地で相手方に学校教育を行うことを求めることはできず、ま た、相手方はその管轄行政区域外に居住することとなる者に対する関係で、引き続き教育活動の実施をすべき安全配慮義務を負うものではないから、抗告人はその履行請求としての教育活動を求めることもできない。
   したがって、抗告人の上記請求についても、被保全権利の辣明がないというべきである。

(6) さらに、保全の必要性について検討する。
   上記(4)(5)のとおり、抗告人が主張するような被ばくを免れる環境の下で教育を受けるためには、相手方が管轄行政区域外に学校施設を設ける場合を含め、転居する以外には他に方策がないところ、証拠(2728)及び審尋の全趣旨によれば、抗告人の父親は、抗告人の住居地から通勤することができないような地に単身赴任をしており、東北地方太平洋沖地震発生直後には、抗告入の家族も父親方に避難することを検討したが、抗告人が友人と再任れて生活するこ とを嫌がったことなどもあり、実現には至らなかったことが認められる。そうであれば、抗告人が相手方の管轄行政区域外の安全な地に転居して被ばくを免れる 環境で教育を受けることには大きな支障があるとはいえず、これを困難とすべき事情は証拠上認めることができない。
そうしてみると、抗告人について、その人格権ないし安全配慮義務の履行請求権に基づいて教育活動を差し止めてみてもその主張する権利の保全につながるものとはいえず、また、抗告人の 主張する被ばくを回避するためには転居するほかないが、転居することに格別の支障があるとは認められないし、転居先の公的教育機関による教育を受けること には特に妨げもないはずであるから、抗告人の主張する抗告人に生じる著しい損害又は急迫の危険をもたらす放射線被ばくを避けるために抗告人が求める保全処分を発する必要性があるとは認めることはできない。


4 よって、抗告人らの当審における仮処分命令の申立ては、いずれも被保全権利の存在を認めることができず、また、抗告人■■■■ついては保全の必要性も認められないので、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

平成25424
        仙台高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官                    佐 藤 陽 一
裁判官                 鈴 木 陽 一
裁判官                 小 川 直 人




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